シリーズ18 世紀の発見、桜の古木をまもる

旧赤池町(現福智町) 虎尾桜を心配する世話人会
  • 代表:熊谷信孝
  • 事務局長:小林省吾
  • 会員:40人(町内)。他に町外の準会員もいる。
  • 事務局:田川郡福智町赤池547−4
  • 電話:0947(28)4717

 筑豊の人なら誰でも知っている福智山(901m)。この山の中腹、南向き斜画に樹齢を経たサクラの大木があることは、山のごく一部の関係者以外、誰も知らなかった。平成元年、役場に勤める小林省吾さん(56)は山腹に、春先になると必ずピンクの斑点が出来ることに気が付いた。仲間と山中を調べてみた。

 あった!登山道もない深い杉木立の中にサクラの古木があった。地形が急峻で杉林に“隠された”状態だったので発見が遅れたのだった。幹周3.8m、樹高23m。樹木医の診断によって、ヤマザクラでも、ましてソメイヨシノでもないエドヒガンで、樹齢約600年、全国でも珍しい野生種と判った。エドヒガンは、有名な岐阜県根尾村の淡墨桜で知られるが、福智山のそれは花の色が濃いピンク色で、目を奪われる風情を漂わせる。まだ、木が“若い”方なのか。しかし、発見当時の様子は悲惨だった。成長の早い杉が周りを囲い、日光を遮る環境になっており、桜の根もとは半分腐っていた。枯死の危険?!

 小林さん達の行動は素早かった。愛称を虎尾桜とした。『虎尾桜を心配する世話人会』(当初は井上孝生会長、現在は熊谷信孝会長)を結成すると各方面に訴えて、この桜の「救命」と「保護」に乗り出した。まず「救命」である。支柱を立て、ワイヤをかけて、肥料を施した。周囲の反響と好意は驚くばかりだった。樹木医さん、NTTの職員の皆さんなどが手弁当で参加。会員は登山道を整備し、案内板を立てた。新聞やテレビでの紹介もあって(財)日本さくらの会(東京)より「さくら功労賞」も受賞した。全国的に有名になって、今や開花の時期になると全国から1万人の観光客が足を運ぶ。すっかり町の新名所になったが、『会』ではふるさとのシンボルとして地道に、息ながく虎尾桜を見まもっていく方針だ。